https://www.yomiuri.co.jp/world/20240415-OYT1T50203/
4/16(火) 5:00配信
[New門]は、旬のニュースを記者が解き明かすコーナーです。今回のテーマは「イスラエル・ロビー」。
イスラエルとパレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム主義組織ハマスとの戦闘で、米国はイスラエルを支持する立場を鮮明にしてきた。背後にはユダヤ系米国人らの「イスラエル・ロビー」の力が存在する。米国で少数派でありながらなぜ絶大な影響力を持つのか。
ハリウッドや投資会社、巨大ITも
米国の非営利団体「米イスラエル協力事業」によると米国内のユダヤ人の人口は、イスラエル(ユダヤ人口約720万人)よりも多く世界最多だ。しかし、米国内の2%(約750万人)程度にすぎない。
米国へのユダヤ人移住が進んだのは19世紀後半からだ。欧州の一部でユダヤ人に対する迫害が起きたことがきっかけで、1920年代までに200万人が渡米した。
30年代のナチス・ドイツの台頭を受け、ユダヤ人の渡米が加速した。相対性理論で知られる物理学者アルバート・アインシュタインや米国務長官を務めたヘンリー・キッシンジャーも含まれる。
渡米したユダヤ人は、映画産業の核となるハリウッドや、ゴールドマン・サックスなどの金融・投資会社、NBCやCBSなどのテレビ局を設立し、米国の政治や経済、マスメディアへの影響力を拡大していった。グーグル、メタ(旧フェイスブック)など巨大IT企業の創業者もユダヤ系だ。
豊富な資金力と組織力 選挙を左右
イスラエルのロビイストは、文字通り議会のロビーを歩き回り、議員に直接働きかけを行っている。豊かな資金力と全米にネットワークを張り巡らせた組織力で選挙情勢も左右する。各議員の活動をチェックし、イスラエルの利益に反する行動をとれば献金をやめると言われる。
米国の政治学者ジョン・ミアシャイマー氏は「主要な報道機関にもロビーの影響は大きく、イスラエルにとって都合の悪い内容を排除し、イスラエルを支持する内容を掲載する傾向が強い」と指摘する。
米国に多数あるイスラエル・ロビー団体の中で代表的な「イスラエル広報委員会(AIPAC、本部ワシントン)」は、財界有力者らの会員が300万人以上。17か所に地域事務所を置く。年間予算額は1億ドル(約150億円)以上で政界への影響力は全米ライフル協会を上回ると言われる。年次総会には議員や閣僚らが超党派で駆けつける。
2022年の米中間選挙では、親イスラエルでない候補者を落選させるため2600万ドル(約40億円)を費やしたとされる。
政界にユダヤ系議員も多く、上院議員の1割近くに上る。閣僚や高官にも多く登用されてきた。バイデン政権でもブリンケン国務長官やイエレン財務長官らがそうだ。
「第2の外務省」
AIPACは、ユダヤ人によるヨルダン川西岸の占領地への入植活動やガザへの武力行使などイスラエルにとって有利な動きを促進するため、米連邦議会に強く働きかけることを任務としている。イスラエルの「第2の外務省」と言われる。
1992年大統領選でブッシュ元大統領(父)が再選できなかったのは、イスラエルによる入植活動を阻止したことでイスラエル・ロビーと対立し、「ユダヤマネー」がクリントン元大統領に流れたのが一因との指摘もある。AIPACなどの働きかけで米国によるイスラエルへの援助額は年間40億ドル(約6000億円)近くに上り、対外援助国としては最大だ。
ミアシャイマー氏は「AIPACは最も強力なロビー組織だ。政治家たちは、イスラエルに圧力をかければロビーによって落選など政治的代償を余儀なくされかねないことを十分理解している」と語った。