農事試験場特別報告 第三十一号
食用及び薬用昆虫に関する調査
技師 理学博士 三宅恒方
第一 緒言
昆虫類で我々の食料となりまた薬用に提供されているものは、本邦のみならず諸外国において記録を探るべきものは甚だ多いけれども、現在において利用されるものに至っては甚だ僅少である通り。ところが世界大戦の結果は食料の需給のなりゆきは戦局と大関係があることが了解されるに至り、米国において昆虫局長Howard氏は率先して昆虫から食料を得ようとすることを企図し、1916年においてこれが試食会を開始するに至った。もしかすると昆虫類から適当な食用品を得るに至るだろうか。昆虫の個数が豊富なのはこれによって安価に材料を供給することを可能とすべく、一方においては利用される昆虫で害虫である場合には、害虫駆除の一助となって間接に農作物の増殖に利するところがあるに違いない。昔から本邦においても一地方においては、食用あるいは薬用の目的をもって嗜食されつつある昆虫の種類は僅少ではないことをもって、これらを調査しその真に食用となることができるものはこれを奨励し、また薬用として価値があるものはこれを推挙することは決して無益な仕事ではないに違いない。もちろんこの計画に関しては調査すべき事項、収集すべき材料は多々存在するけれども、まず現在において果たしてどんな昆虫の種類が、本邦において食用とされ、また薬用となされるかを知ることは最も重要な項目の一である。ここにおいて本場は大正七年各道府県立農事試験場にこれの調査を委嘱し、その報道された材料を基礎として本報告を編纂することとしたのである。
本報告は別けて食用昆虫及び薬用昆虫の二項とする。食用昆虫とは単に食用だけが目的とされるもので、薬用昆虫と呼ばれるものは疾病に効果があると言われるものをいう。ただし薬用昆虫に属するものとたとえ外用するものは少なくとも、多くは食用とされるがゆえに疾病に有効な食用昆虫とみなすべきものは少なくない。